習慣・自己管理

快楽のトレッドミルとは。会計士合格でも満たされなかった訳

2026年10月13日更新 約11分で読めます 文・福井龍介(Ryu)/POTEX株式会社 代表取締役

「快楽のトレッドミル 会計士合格でも満たされなかった」の文字。Ryuと、合格証書で上がって元に戻る線

仕事や勉強、筋トレなど、目標を持って頑張っている人に知っておいてほしいことがあります。目標を達成することで、不幸になることがあるんです。僕のYouTubeの立場上、言わないほうがいいのかもしれませんが、事実です。動画『【残酷】"努力と成長"が好きな人がハマる3つの落とし穴』を記事にしました。

動画で挙げた穴は3つで、1つ目が快楽のトレッドミルです。慶應や会計士に受かったときも、喜びは長く続きませんでした。僕が大事にしているのは、自分の価値観と向き合うことから逃げないことと、感謝の習慣の2つです。

快楽のトレッドミルとは、
達成の喜びが元の水準に戻ること

快楽のトレッドミルとは、目標の達成や大きな買い物で得た幸福感が、時間が経つにつれて薄れていき、最終的には元の幸福の水準に戻ってしまう現象です。走っても同じ場所にとどまるトレッドミル(ランニングマシン)にたとえた呼び方です。

目標の達成で幸福感が一時的に上がり、時間が経つにつれて元の幸福の水準へ戻る図

動画では海外移住や昇進、高価な買い物を例に挙げました。目標を追う人なら、こんな場面が身近だと思います。

  • ずっと憧れていた企業に就職する
  • 難関の試験に受かる
  • 夢だった海外の大学への留学を果たす
  • 好きだった人と付き合う

憧れを強く抱いていた目標ほど、実際に手に入れたときに、思ったほど満足できないことが多いです。

宝くじの高額当選者22人と、当選していない22人を比べた1978年の研究があります。当選者のほうが幸せだとは言えませんでした。日常のささいな出来事から感じる楽しさは、むしろ小さかったと報告されています(Brickman, Coates & Janoff-Bulman, 1978)。

研究の原典は記事に載せました。慶應や会計士のころの話を僕の声で聞きたいときは、動画を見てください。

この記事は動画『【残酷】"努力と成長"が好きな人がハマる3つの落とし穴』(1.6万回)をもとに構成しています。全編は16分です。

慶應・会計士・留学。
達成しても幸福度は元に戻った

この1つ目の穴は、僕がいちばん痛い思いをしたところです。

まずYouTubeの話です。このチャンネルは、1年続けたあとの3か月で急に伸び、それまでの10倍以上の方に登録していただけました(動画を撮った2024年3月時点の話です)。最初に動画が伸びたときは、涙が出そうになるくらい嬉しかった。いろいろ言われたけれど、続けてよかったと心から思いました。

でも、僕の幸福度が10倍になったかと言われたら、そんなことはありません。その喜びは、極端に言えば一瞬です。多くの人に発信を見てもらえる幸せな状態に、すぐに慣れてしまったんです。

もっと前の達成でも同じでした。地元の公立の学校から必死に勉強して慶應に受かり、大学2年生で公認会計士試験に合格し、英語がまったく話せない状態からカナダの大学への留学も決まりました。どの達成も、その瞬間から数週間、数か月は幸福度が急上昇します。けれど長い目で見て幸せになったかと言われたら、それは分かりません。すぐにもっともっと、という悪魔のような欲望が自分を駆り立て、幸福度は元の状態に戻っていきます。

この事実を知らずに、目標さえ達成すれば報われる、という浅はかな思考を持った時点で終わりです。仮に高い目標を達成したとしても、今ある大切なものや価値観を見失います。

ただ、この性質には健全な側面もあります。この仕組みがなかったら、僕らは継続的に成長できません。一度どっぷりはまるからこそ、自分の価値観や内面に目が行くようにもなるんだと思います。本音を言えば僕はこの性質を素晴らしいものだと思っていて、動画で悪役として登場させるかは、かなり悩みました。それでも、せっかくなら、はまらずに目標達成で幸福度を上げていきたいです。

快楽のトレッドミルを
動かす3つの仕組み

快楽のトレッドミルの仕組みで代表的なものは、適応、期待値の上昇、他人との比較の3つです。

「適応」「期待値の上昇」「他者との比較」の3つが並んだ動画の画面と、話しているRyu
図1. 快楽のトレッドミルの代表的な仕組みは、適応、期待値の上昇、他者との比較の3つ(動画『【残酷】"努力と成長"が好きな人がハマる3つの落とし穴』より)

1つ目の適応は、新しい環境や状況、持ち物にすぐ慣れる力のことです。留学したとき、僕は最初の1週間、本当に毎日がパラダイスでした。でもその興奮は、1週間、2週間もすればなくなっていきました。

2つ目の期待値の上昇は、一度達成すると、もっともっと、と、より高い目標を設定する傾向です。それ自体はいいことです。ただ、期待が上がり続けると、達成した結果に満足できず、常に渇望心とともに生きることになります。

3つ目の他人との比較は、人間の本能のようなもので、快楽のトレッドミルにとても強い影響を与えます。比較は1本の動画が作れるくらい大きなテーマなので、ここでは深追いしません。

快楽のトレッドミルと
付き合う2つの方法

快楽のトレッドミルとうまく付き合うために、僕が大事にしていることは2つあります。自分の価値観と向き合うことから逃げないことと、感謝の習慣です。

1. 自分の価値観と向き合うことから逃げない

言い換えると、内発的な目標を追うことです。慶應、公認会計士、なんとなくの海外への憧れ。僕はどれも、少なからず外からの報酬や承認を原動力にして頑張っていました。入る前、受かる前、行く前には、それが実際にどんなものかは分かりません。だから内発的な動機を見つけるのは難しく、正直、通るべくして通った道だと思っています。

それでも過去の自分に1つだけアドバイスできるなら、自分がどうしたいかという内発的な動機を、今思っている以上に大事にしたほうがいいと伝えます。自分の興味関心を探求することをやめない。そうでないと、いつまでたっても他人の人生を生きることになります。ひどいケースだと、目標を達成したのに虚無感に襲われます。特に大切にしていたものを捨てて達成したときは、自分は何をやっていたんだろう、本当にこれでよかったのか、と後悔する人もいます。

僕の場合は、今自分が大事にしたいことを絶対に犠牲にせず、価値観に沿って生きることに強いこだわりがあります。一方で、ドーパミン100%の結果追求型の生き方がいいと考える人もいると思います。その場合は僕の価値観は無視して、普段発信しているノウハウやテクニックの部分だけ参考にしてもらえたら嬉しいです。

価値観と向き合う方法として、動画ではジャーナリングをすすめました。書き方はジャーナリングのやり方と続け方にまとめています。

2. 感謝の習慣で足るを知る

もう1つ欠かせないのが、感謝の習慣です。足るを知る、という言葉のとおり、今あるものに目を向けて感謝し、今の状況への満足度を高めます。たとえば、自分の過去の成功や成長を書き出してみる。周りの人のサポートに感謝して、直接ありがとうと伝えてみる。感謝は、僕らが常に求めてしまう、もっともっとという欲望に抗う力になります。

僕は夜に毎日書く感謝の日記をとてもおすすめしていて、コーチングでも伝えています。書き方の例は三日坊主を直す7つの方法の4つ目で紹介しました。

足るを知ることと
「もっともっと」を、僕は共存させたい

ここでよく起きるのが、価値観の対立です。足るを知ることが大事だから、努力はやめて今を生きよう、という考え。まだまだ上を目指せ、理想の未来を見てなんぼだろう、という考え。どっちがいいのか、という話です。

あくまで1個人の意見ですが、何回も考えて、やっぱりこれだと思うことがあります。今に満足することと、もっともっとの渇望心や新たな目標の達成は、二項対立ではなく、共存させるものだということです。

「1.足るを知る 今に満足する」「2.もっともっとの渇望心 新たな目標の達成」と表示された動画の画面と、話しているRyu
図2. 足るを知ることと、もっともっとの渇望心は二項対立ではなく共存させるものだと僕は考えている(動画『【残酷】"努力と成長"が好きな人がハマる3つの落とし穴』より)

大学1年生で公認会計士試験を目指し始めたころ、僕は高校時代の強い後悔があって、上を目指すことに全振りしていました。コロナも重なって、人と疎遠になってでも、やるべきことに集中する。途中でメンタルが崩れそうになり、目標を達成したのに、なんだか満たされない虚無感に近いものも感じました。

その反動で、合格後は上を目指す活動の時間を極限まで減らし、コーチングや哲学に触れる生き方をしてみました。でも、あくまで僕の場合は、どちらかに全振りするとしっくりこなかった。足るを知ることが幸せな考え方だとよく理解しても、心の底から満足はできませんでした。自分の心に正直になると、もっといい生活がしたい、結果にこだわりたい、本気の挑戦がしたい、という欲望が出てくる。悟りを開く方向も考えましたが、僕には無理でした。

そこから悶々とする中で、留学に行き、YouTubeを始め、個人で事業も始めました。探してきたのは、自分の価値観を大切にしながら、結果も追求するバランスです。足るを知るという東洋的な生き方と、もっともっとという西洋的な野心を、自分の中で最適なバランスでハイブリッドする。これが今の僕の理想です。

これは僕個人の価値観の話で、答えを示すものではありません。そのうえで、いま快楽のトレッドミルに浸ってしまっている人は、足るを知る要素を少し強めると、バランスが取れてくるのではないかと思います。感謝の日記を書いてみる。照れくさいですが、身近な人に感謝を伝えてみる。家族や恋人、友達を、いつも以上に大切にしてみる。

2つ目の穴、
バーンアウトを防ぐ3つのこと

目標を追う人がはまりやすい2つ目の穴は、バーンアウト(燃え尽き)です。職場の問題として取り上げられることが多いですが、個人の目標達成でも、誰でも陥りうる穴だと僕は考えています。メンタルが強いから大丈夫、と思っている人にこそ知ってほしいテーマです。

僕が動画で話したバーンアウトは、長期にわたる職場や目標達成のストレス、過度なプレッシャーが原因で起こる消耗状態のようなものです。具体的には、エネルギーの枯渇、無力感、疲労感、仕事や目標に対するネガティブな感情などです。心と体の両方の疲れを含みます。

僕は公認会計士の受験生時代に一度、自分はバーンアウトかもしれないと思って、かなり調べました。原因には性格や孤独感など、いろいろな要素が複合的に絡み合っていると言われています。そのうえで動画で主な原因として挙げたのは、過剰な業務量、コントロール感の欠如、報酬の不足、コミュニケーションとサポートの不足、不公平感、価値観の不一致の6つです。燃え尽きの研究でも、ほぼ同じ6つの領域が整理されています(Maslach & Leiter, 2016)。

防ぐためにできることとして、動画ではシンプルに3つを挙げました。

  1. 生活習慣。良質な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を、自分が思っている以上に優先する。
  2. ストレスマネジメント。僕のチャンネルでは瞑想をすすめていますが、ジャーナリングやサウナなど方法はいろいろあります。僕は先に趣味の予定を入れ、そこまでの生産性を上げて、オンとオフを明確に分けることを意識しています。
  3. 人とのつながり。家族、友人、同僚と良い関係を築き、必要なときに助けを求める。頼る力も大事になってくると思います。

今バーンアウトっぽくなっている人はもちろん、そうでない人も、事前のセルフケアを大切にしていきましょう。

3つ目の穴、
目標達成と自分の価値の同一視

3つ目の穴は、目標達成と自分自身の価値を同一視することです。目標達成に執着すると、達成している自分しか認められなくなります。結果を出している人が偉い、できないやつは価値が低い、という基準を、自分自身にも当てはめてしまうんです。

「目標達成と自分の価値を同一視する」の見出しと「達成している自分のことしか認められなくなります」のテロップが出た動画の画面
図3. 目標達成と自分の価値を同一視すると、達成している自分しか認められなくなる(動画『【残酷】"努力と成長"が好きな人がハマる3つの落とし穴』より)

そうなると、少しうまくいかないだけで自己肯定感が下がり、やる気が落ちて、やるべきことが進まない。生産性が落ちて、また自己肯定感が落ちる。この負のループに入ります。

ここから抜け出すために僕が大事にしてきたのが、結果を手放すという考え方です。一度目標を決めたら、結果は完全にはコントロールできません。だから極端に言うと、結果自体を追うのはやめて、目標から逆算して行動計画を立て、その行動をやり切る過程に価値を置きます。目標に挑戦しているという事実そのものに価値があると、僕は思っています。

充実した毎日を過ごしていると、ワクワクするし楽しい。失敗も成功も全部ひっくるめて過程に価値を置けると、心が軽くなります。ダメな自分が出てきても、それを認めてあげる自己受容が、少しずつできるようになってきます。この自己受容がないと、1つ目の穴で話した自分の価値観に沿った目標を立てることも、人との比較を適度に抑えることも難しくなります。

動画を1本見ただけで解決する簡単な話ではありません。そのうえで僕のおすすめは、どんなに批判されても自分を認めてあげられる基準を、先に決めておくことです。

僕も、YouTubeを始めたり、公認会計士に受かったのに違うことをしたりして、ああだこうだ言われてきました。アンチコメントが来ることもあります。YouTubeの伸びもどこかで必ず止まるし、この先、事業で大失敗するかもしれない。それでも、自分の中でやるべきことをやる、積み上げる、正しいと思うことを貫く。それさえできていれば、僕は自分を心の底から認められると思っています。どれも自分のコントロールの中にあることです。

無理に自分を認めようとする自己受容は、僕はあまり好きではありません。こんな自分が好きだ、という心の底からの気持ちと素直に向き合い、コントロールできる範囲の行動に落とし込む。そうすると、結果や他人からの評価に惑わされにくくなると考えています。

よくある質問

自分の価値観は、どれくらいで分かるようになりますか

内省や自己理解は一朝一夕でできるものではなく、僕は死ぬまで続けるプロセスだと思っています。最初は悶々とする日々が続きますが、自分を見つめる時間を取っていくと、少しずつ自分の気持ちが見えてきます。

いま燃え尽きているかもしれないときは、どうすればいいですか

疲れが抜けない、眠れないといった状態が続くときは、ひとりで抱え込まず、医療機関や専門の相談窓口に相談することをおすすめします。

まとめ

快楽のトレッドミルは、達成の喜びが時間とともに薄れ、元の幸福の水準に戻る人間の性質です。悪役として紹介しましたが、成長を続けられるのもこの性質があるからです。

  • 快楽のトレッドミルの代表的な仕組みは、適応、期待値の上昇、他人との比較の3つ
  • 僕が大事にしている付き合い方は、価値観と向き合うことと、感謝の習慣の2つ
  • 足るを知ることと、もっともっとは、どちらかに全振りせず共存させる(僕の場合)
  • バーンアウトを防ぐために動画で挙げたのは、生活習慣、ストレスマネジメント、人とのつながりの3つ
  • 僕のおすすめは、結果を手放し、自分を認めてあげられる基準を持っておくこと

偉そうに書きましたが、僕もまだまだ道半ばです。時にははまることもあるかもしれませんが、それはそれで次につながると考えています。自分と向き合う方法として、動画の最後でもジャーナリングをすすめました。書く型に迷ったら、ジャーナリングのテンプレートから始めてみてください。

出典

  1. 宝くじ当選者の幸福度: Brickman, P., Coates, D., & Janoff-Bulman, R. (1978). Lottery winners and accident victims: Is happiness relative? Journal of Personality and Social Psychology, 36(8), 917–927. PubMed 690806
  2. バーンアウトの6つの領域: Maslach, C., & Leiter, M. P. (2016). Understanding the burnout experience: recent research and its implications for psychiatry. World Psychiatry, 15(2), 103–111. https://doi.org/10.1002/wps.20311

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【残酷】"努力と成長"が好きな人がハマる3つの落とし穴

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